拒絶理由あれこれ

 特許出願は、出願の手続だけしても審査はされず、別途、出願審査請求という手続をする必要があります。


 出願審査請求の手続が行われた特許出願はやがて審査官により審査されますが、すんなりと合格する(特許査定を受ける)出願よりも、何らかの拒絶理由が通知される出願の方が多いです。この通知は、拒絶理由通知書という書類をもって行われます。

 

 特許法では、特許を受けることができない要件が規定されており、審査官は、審査対象の出願がこれらの要件のいずれかに当てはまると判断した場合に、拒絶理由を通知します。通知される拒絶理由は、特許公報などの刊行物(以下「文献等」といいます。)の引用を伴う場合が多いのですが、その通知にも何種類かのパターンがあります。文献等の引用を伴わない拒絶理由通知にも同様に、何種類かのパターンがあります。

  さらに複数の拒絶理由が一度に通知されることがあり、その中に、文献等の引用を伴う通知と引用を伴わない通知とが合わせてされることがあります。

 

 拒絶理由通知書では、冒頭に、出願番号、起案日、審査官の名前、出願人または代理人の名前、拒絶理由の適用条文が示され、その後に典型的な文言による主文が掲げられ、さらに具体的な理由が記述されます。

 

 以下、引用されることが多い拒絶理由通知について、拒絶理由通知に記される主文と共に、簡単に解説します。

A.先行技術文献の引用を伴う拒絶理由通知

1) この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、
頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

 

 この拒絶理由は、審査対象の発明は、その出願がされた時点より前に特許公報などの刊行物またはインターネットなどのコンピュータネットワークを通じて第三者に知られる状態(この状態を公知といいます。)となり、新しさ(新規性)を失ってしまったため、特許を認めることはできない、という意味のものです。


 この拒絶理由は、出願人や発明者自身が不用意に論文などで発明を公開してしまったために生じる場合もありますが、大半は、審査対象の出願より前に、他人により同内容の発明がされてその発明が公開されていることが原因で発生します。

 

(2)  この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

 

 この拒絶理由は、審査対象の発明は、その出願がされた時点より前に刊行物やコンピュータネットワーク等により公開された発明に基づいて簡単に思いつくことができる程度のありふれたものである(「進歩性がない」)という意味のものです。

 

 引用文献としては、出願発明に近い概念の発明が記載された文献(引用文献1)と、この引用文献1の発明と出願発明との相違点を表す1以上の文献(引用文献2~)とが挙げられることが多いです。

 

(3) この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

 

 非常にわかりにくい文章で、はじめて目にされた方は、一体どういう意味なのか分からない・・・と思われるかもしれませんね。

 (3)の拒絶理由も、(1)と同じように、審査対象の発明と同一の発明が存在する場合に生じるのですが、その同一発明は、審査対象の発明の出願より前に出願された発明(実用新案を含む)であって、審査対象の発明が出願された時点には公開されていなかったものです

 つまりは、審査対象の発明が出願される時点では確認することはできなかったが、既に同じ内容の発明が記載された出願書類が特許庁に提出されていたという場合に出る拒絶理由なのです。

 

 (3)の拒絶理由で引用される先行の出願は、他人によるものであって、発明者または出願人が同一の先行出願が引用されることはありません。たとえば、1つの装置に関して、異なる観点で特許を取得するために、明細書中の具体例や図面を共通にして複数件の出願をすることがありますが、これらの出願の時期がずれて、先の出願の書類に後の出願の発明の内容が記載されていても、発明者または出願人が同じであれば、(3)の拒絶理由が適用されることはありません。

 一方、(1)や(2)の拒絶理由については、自己の発明も引用の対象になります。したがって、たとえば、関連出願の時期が大きくずれて、最初の出願が公開されてしまうと、後の出願に、最初の出願を引用した拒絶理由が通知されることがあります。

B.先行技術文献の引用を伴わない拒絶理由通知

(4) この出願の請求項○○に係る発明は、特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので、特許を受けることができない。
 
 請求項に記載されている発明が、
 (a) 特許法上での
発明の概念(自然法則を利用した技術的思想の創作)に該当しないと判断された場合、 または
  (b) 産業上利用することができない発明であると判断された場合
に出る拒絶理由ですが、通常出されるのは(a)に該当するものです。

((b)については、「人間を手術、治療又は診断する方法」、すなわち医師等により行われる医療行為が該当するとされています。)


 
 (a)に該当するのは、自然法則自体だというもの、単なる発見にすぎないもの、自然法則に反するもの、自然法則を利用していないもの、技術的思想でないもの、とされていますが、一番多いのは、「自然法則を利用していない」に該当するものであるように思われます。

  たとえば、ゲームのルールや保険のしくみのような人為的な取り決め、経済学の法則などです。一時期はやったビジネスモデルに関わる出願も、ビジネスの仕組みを記載したにすぎないものは、「自然法則を利用していない」として、この拒絶理由の対象になります。

  

(5) この出願は、特許請求の範囲の記載が(下記の点で)特許法第36条第6項第1号(または第2号)に規定する要件を満たしていない。

 

 特許請求の範囲の記載に不備がある場合に出る拒絶理由です。

 特許法第36条第6項は、特許請求の範囲に記載すべき要件を規定するもので、第1号では「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」が必要であると規定され、第2号では「特許を受けようとする発明が明確であること」が必要であると規定されています。

  ちょっとした記載ミスが原因でこの拒絶理由を受けることもありますが、殆どの場合、

明細書に記載した実施例より広い概念の発明を記載するために、必要な要件の一部を省略したり、記載を抽象的にしすぎたことが原因で、この拒絶理由が通知されます。

  

(6) この出願は、発明の詳細な説明の記載が(下記の点で)特許法第36条第6項第4号に規定する要件を満たしていない。

 明細書の記載に誤記があったり、説明に矛盾がある(たとえば、機械に関する発明で、明細書の記載では機械が動作しないと考えられる)など、明細書の記載不備に対して通知される拒絶理由です。

 また、特許請求の範囲に対応する部分に対する記載不備を指摘するものとして(抽象的な記載のみで発明を実施するのに必要な事項が記載されていないという指摘)、上記(5)の拒絶理由と共に通知されることも多い拒絶理由です。

 

(7)この出願は、(下記の点で)特許法第37条に規定する要件を満たしていない。

  技術的に密接した関係にある複数の発明は、発明毎に請求項をたてることで、1つの出願としてまとめて提出することができる(発明の単一性と呼ばれています。)のですが、各請求項の間に単一性の要件を満たす関係がないと判断されると、(7)の拒絶理由が通知されます。

  たとえば、同一の物品に適用される発明ではあるが着目する課題が異なる発明たとえば、携帯電話の操作を簡単にするための発明と、携帯電話の電波の受信機能を向上するための発明)について、それぞれ請求項をたてると、この拒絶理由が通知されてしまいます。ただ、多くは、そのような極端な事例ではなく、実際の発明より広い権利を取得しようと複数の請求項を立てたことによって、この拒絶理由が通知されてしまうように思われます。

  

 たとえば、明細書に記載した実施例よりも大幅に広い概念の発明を請求項1に記載し、実施例より少し広い概念の発明を請求項2に記載し、実施例の発明ずばりを請求項3に記載したとします。この場合、一番広い請求項1に特別の技術的特徴があるかを判断し、特徴が見つかれば、以下の請求項を含めて審査の対象とするのですが、請求項1と実質的に同じ発明が記載されている先行技術文献が見つかると、請求項1に特別の技術的特徴はなく、請求項2以下との間での単一性の要件は満たされていない、と判定され、(1)の「新規性」がないという拒絶理由とセットで(7)の拒絶理由が通知されてしまいます。