特許出願が審査官により審査され、最終的に、審査官が当該出願には特許を付与することはできないと判断して拒絶査定を出したとき、出願人は、この査定を取り消すことを求める審判を請求することができます。この審判は拒絶査定不服審判と呼ばれています。
審査の段階では、審査官が一人で、特許する/しないを判断しますが、拒絶査定不服審判では、複数人(通常は3名)の審判官のチームにより、拒絶査定が妥当であったかどうかが検討されます。このチームは合議体と呼ばれ、合議体の中の一人の審判官が審判長となります。また合議体により行われる検討は審理と呼ばれます。
合議体による審理で拒絶査定が妥当でないと判断された場合には、拒絶査定を取り消して、特許をすべき旨の審決(特許審決)が出されます。反対に、拒絶査定は妥当であるという判断がされた場合には、「審判の請求は成り立たない」という記載により、審判請求を棄却する審決(拒絶審決)が出されます。
拒絶査定不服審判では、文字どおり、拒絶査定に対して真っ向から不服を申し立て、審査官の判断は間違っていると主張しても良いのですが、実際にはかなりの割合で、拒絶理由を解消することを目的とする補正(主として特許請求の範囲を補正するもの)が行われます。
補正がされた場合は、合議体による審理に先立ち、もう一度、審査官による審査が行われます。この審査は、前置(ぜんち)審査と呼ばれ、原則として拒絶査定を出した審査官が担当します。
何故、このような取り扱いがされるかというと、補正によって拒絶理由が解消された場合には、これまで審査に関わっていた審査官がそれを判断するのが一番効率が良く、また早期に特許を付与することができて、出願人にもメリットとなるからです。前置審査において拒絶理由が解消したと判断した場合には、審査官は、前の拒絶査定を取り消して特許査定をします。このため、合議体による審理がされることはありません。
前置審査でも審査官が拒絶をすべきだと判断した場合に、再び拒絶査定が出ることはありません。この場合には、審査官は特許庁長官に前置審査の結論を報告し、これを受けて、特許庁長官は合議体を構成する審判官を指名します。これらの手続に応じて審判請求人(出願人)にも、審査前置解除通知(前置審査が終わったことの通知)や審判官および審判書記官の氏名通知が発送されます。これらの通知により、前置審査では良い結果は得られず、合議体による審理に移行したことを知ることができます。
少し前までは、前置審査の後に合議体による審理が開始されると、審判長の名により前置審査の報告書の内容を審判請求人に知らせて意見を求める手続(審尋)が実施されていました。しかし、現在は、審判請求人の見解を求めることが必要と判断した場合を除いて審尋は行わないという方針になっていますので、審判請求人が前置報告の内容を確認するには、J-Platpat(特許情報の検索サイト)の審査書類情報照会または書類の閲覧請求といった自主的行為を行わなければなりません。前置審査に対する意見を述べたい場合にも、上申書の提出という自主的行為が必要となります。
以前は、拒絶査定不服審判の請求は、拒絶査定の謄本の送達日から30日以内という非常に短かい期間に限定されていましたが、平成20年の法改正によって、この期間は3ヶ月にまで拡大されました。ただし、特許請求の範囲などの出願書類を補正できる機会は、「審判の請求と同時」というように限定されています。またこのときには、現在の請求項の概念を拡大したり、発明の利用分野や解決する課題を変更するような補正をすることはできません。
拒絶査定不服審判を請求することができる3ヶ月の期間内であれば、分割出願をすることも可能です。したがって、補正が認められにくいと思われる範囲にまで請求項の記載を書き換えたいので、拒絶査定不服審判を請求することなく分割出願を行う、という選択をする場合もあります。
いずれにせよ、3ヶ月というのは十分に長いようですが、油断をするとすぐに経過してしまいますので、早めに詳細に検討をして、適切な対策を決定することが肝要です。