特許出願の審査では、先行技術文献を引用しての拒絶理由が通知されることが多いのですが、引用されている文献の内容を確認されて
なんで!? ウチの発明とは全然関係なさそうなのに・・・
と感じられる方が多くおられることと思います。
しかし、拒絶理由通知は、あくまでも、現在の特許請求の範囲に記載されている発明に対して出されたもので、明細書において詳細に説明されている具体的な発明(実施例)を否定しているわけではないのです。
拒絶理由通知において引用される文献の大半は、公開特許公報または特許掲載公報です。審査対象の出願では特許請求の範囲に記載された発明が比較の対象になるのに対し、引用文献に関しては、特許請求の範囲に限らず、図面を含む文献全体の記載が比較の対象になります。このため、審査対象の発明に近い概念が示されている箇所が片隅にでもあれば、その記載を有する文献が引用されてしまうのです。極端な場合、100ページを超える文献のほんの数行の記載に基づいて拒絶理由が通知されることもあります。
また出願の際には、できるだけ広い権利をとる目的で発明の概念を膨らませて特許請求の範囲を記載するので、その結果、公知の技術と差違のない概念であるとか、進歩性がない発明だと判断される内容になってしまうことがあるのです。
拒絶理由が通知されたといっても、それをもって直ちに権利化の途が閉ざされるということにはなりません。出願書類(明細書や図面)に引用文献に記載されていない特徴が記載されている場合には、その特徴が明確になるように特許請求の範囲を補正することによって、通知された拒絶理由を解消し、特許査定をうけることができる可能性が十分にあります。
特許請求の範囲などの記載や設定されている請求項の間の関係が法に規定する要件を満たしていないといった、先行技術文献を引用しないタイプの拒絶理由も、特許請求の範囲の記載を曖昧にしたり、抽象的すぎる記載にしたことが原因で生じることが多いです。こういった場合にも、拒絶理由通知書に記された審査官のコメントから審査官が問題視している点を読み取り、その問題点が解消するように特許請求の範囲を補正することによって、特許査定をうけることができます。
拒絶理由が通知されることなく特許されるような書類を作成してほしい・・・と、代理人(弁理士)に訴えたい出願人の方もおられるかもしれませんが、そのご要望にお応えしようとすると、特許請求の範囲を狭くしすぎてしまうおそれがあります。審査官にどのような指摘をされるか分からないうちから特許請求の範囲に多くの限定要素を含めると、特許権を取得できたとしても、効力が及ぶ範囲が狭い権利になってしまいます。
少し欲張った権利請求を行い、拒絶理由通知を一回ほど受けて、その拒絶理由が解消するような補正を行う・・という方法は、財産価値をできるだけ高めようという観点からは妥当な方法であると思います。もちろん、その方法によって、事業を保護できる内容の権利を取得できることが大前提ではありますが。
なお、新規性や進歩性にかかる拒絶理由については、他人の発明に限らず、自己の発明も引用の対象になります。
たとえば、1つの装置に関して、異なる観点で特許を取得するために、明細書中の具体例や図面を共通にして複数件の出願をすることがありますが、これらの出願の時期がずれて、先の出願の書類に後の出願の発明の内容が記載されていても、先の出願が公開される前に後の出願をした場合には、先の出願を引用して拒絶理由が通知されることはありません。しかし、関連出願の時期が大きくずれて、先の出願が公開されてしまうと、後の出願に対し、先の出願の公開特許公報に同一の発明が記載されているという拒絶理由が通知されることがあります。
また、先の出願に記載された発明に関してちょっとした改良をしたとか、利便性を高めるための工夫を追加したとかいう場合にも、それらの工夫を盛り込んだ出願が先の出願の公開より後になってしまうと、後の出願に対する進歩性の判断のハードルも上がってしまいます。つまり、後の出願は、先の出願に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものだと、判断されてしまう可能性が高まります。出願の後に改良をした場合には、新たな出願が必要かどうかを速やかに検討することを、お勧めします。
通知されることが多い拒絶理由に関しては、
拒絶理由通知あれこれの解説をご参照下さい。