特許出願の際に提出される特許請求の範囲には、一般に、実際に実施される発明の上位概念にあたる発明が記載されます。実際に実施される形態よりもある程度広い範囲に権利が及ぶようにしておかないと、少し異なる形に変形して物真似をされた場合に、その物真似品が特許発明の技術的範囲からはみ出してしまい、物真似品に特許権の効力を及ぼすことができなくなるおそれがあるからです。
特許請求の範囲には、技術的に共通する特徴を持つ複数の発明を、請求項という単位に分けして記載することが認められていますので、上位概念の請求項だけでなく、実施の形態にかなり近い概念の請求項や実施の形態ずばりの請求項を設定することができます。また概念は殆ど同じだが、発明の対象のカテゴリが異なる請求項(たとえば通信の方法を対象にする請求項とその方法が実施される携帯電話に関する請求項)を設定することもできます。
特許出願の審査において、審査官は、請求項毎に、その請求項に係る発明に拒絶の理由がないかどうかを検討します。その結果、拒絶理由が見つかると、拒絶理由通知を出すのですが、複数の請求項が設定されている出願に対する拒絶理由通知書には、拒絶理由に関する記載の後に、次のような文が記載されていることがあります。
請求項○に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。
拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。
○には請求項の番号を示す数字が入ります。2つ以上の請求項があげられる場合もあります。
上記の記載は何を意味するのか、といいますと、
複数の請求項のうちの請求項○に関しては、拒絶理由が見つからなかったので、
請求項○を残して、他の請求項を削除する補正を行うならば、新たな拒絶理由が見つからない限り、特許査定をしますよ、
という意味なのです。
このため、この記載を目にすると、つい、「おお、よかった! 請求項を削除すれば特許されるぞ~」と、喜んでしまいがちなのですが、
本当にそれでよいのかな・・・???
あわてて結論を出さずに少し時間をおいて考えてみましょう。
まず拒絶理由がないと判定された請求項が、実際に実施している発明の形態をカバーできているかどうかを検討しなければなりません。実際に実施している製品やビジネスにあてはまらない請求項により特許を受けても、その製品やビジネスに対して「特許権を取得した」と言うことはできません。せっかく特許権を取得しても、ビジネス上の価値がかなり低い権利になる可能性があります。
拒絶理由がないと判定された請求項が実際の発明の形態にあてはまる場合でも、その形態そのものずばりしか表現できていない記載になっている場合には、それより少し広い概念の請求項を設定できないかどうか検討してみて下さい。その検討は、拒絶理由が通知された他の請求項に対して引用されている先行技術文献などから判断して行うことができます。
拒絶理由が通知されている請求項についても、もう少し記載を明確にすれば、拒絶理由を解消できるかもしれません。
拒絶理由通知書に記載されている審査官のコメントには、補正のヒントが示されていることもあります。拒絶理由がないと判定された請求項にすぐにとびつくのではなく、拒絶理由の内容や引用文献をよく検討することが肝要です。