特許と実用新案との違い

 特許と実用新案・・・いずれも技術に関して生み出されたアイデア(法文上では技術的思想といいます。)を保護するものですが、以下のような違いがあります。

 
 まず、第1に、保護の対象となる範囲に違いがあります。

 

 特許では、産業上利用することができるアイデアを全般にわたって保護します。たとえば、機械、自動車、家電、日用品などの一定の形態を有する物(物品)のほか、化学物質、医薬品、建築材料などの形態が定まらない物や、無体物であるプログラムも保護の対象となります。また、物を生産する方法や物を使用する方法など、方法に関する新規なアイデアも特許により保護することができます。

 

 これに対し、実用新案で保護されるのは、物品の形状、構造又は組み合わせに関するアイデアに限定されます。一定の形態を有しない有体物やプログラムに関するアイデア、方法に関するアイデアを実用新案により保護することはできません。なお、プログラムに関しては、そのプログラムに基づく処理を実行する機能を有する装置(たとえばゲーム機)として、実用新案により保護することが可能です。

 

 第2に、特許と実用新案とでは、権利の存続期間に大きな違いがあります。

 

 いずれの権利も設定登録により発生しますが、特許権は、毎年の特許料を納付することを条件に、出願の日から20年が経過するまで存続します。

 一方、実用新案権の存続期間は、出願の日から10年間と、特許に比べてかなり短くなります。

 

 第3に、特許と実用新案とでは権利が発生するまでのプロセスが大きく異なります。

 

 特許出願は、出願審査請求という手続をすることによって、特許庁の専門職員(審査官)により内容が審査され、登録要件を満たしていると判断されたものだけに登録を許可する通知(特許査定の謄本)が出されます。この通知から一定の期間内に出願人が最初の3年間の特許料を納付すると、特許権の設定登録がなされ、その時点から権利が発生します。


 これに対し、実用新案では、書類の形式的な審査がされるのみで、出願された内容の実体的な審査がされることなく、出願から数ヶ月で実用新案権の設定登録がなされます。すなわち、実体的な審査なしで登録されてしまうのです。

 

 第4に、権利行使に関する違いがあります。

 

 特許権を取得した場合には、権利者は自由にその特許権を行使して、他人の特許発明の実施をやめさせたり、損害賠償を請求することができますが、実用新案権者による権利行使には制限が設けられます。実用新案では、登録の要件を満たさないものでも登録されてしまうことがあり、そのような無効にすべき権利が濫用されると、社会を混乱させてしまうからです。


 具体的には、実用新案権者が自己の保有する実用新案権を行使をしたい場合には、特許庁に、考案の技術的な評価を求める書類(技術評価書)を請求し、この技術評価書を提示して警告をしなければ、権利行使をすることができないという定めがあります(実用新案法第29条の2)。技術評価書は、審査官により作成され、登録実用新案に係る考案の新しさ(新規性)や先行技術に対する優位性(進歩性)などを判断した結果が記載されます。

 
 現行の特許法や実用新案法が制定された当初(昭和34年)には、保護の対象や権利の存続期間に関する違いはありましたが、実用新案も、特許と同様に出願の内容が審査され、登録要件を満たすと判断されたものだけが登録されていました。しかし、平成5年に実用新案法が改正されて、上記のような特許とは大きく異なるシステムが導入されました。この改正後の実用新案法による実用新案権の価値は、昔に比べると非常に低くなったように思われますが、少なくとも、何の保護もせずに世に出してしまうことと比較すると、実用新案登録出願をしておくことには大きなメリットがあると思います。現に、日用品やライフサイクルの短い商品に関して、実用新案を積極的に活用されている企業があるとも聞いています。

 
 実用新案登録を受けると、その実用新案の対象となる製品には、堂々と「実用新案登録××××号」という表示を付けることができます。この登録表示と共に製品の特徴をアピールすることによって、効果の高い宣伝を行うことができ、売り上げの向上につなげることもできるでしょう。

  また、実用新案が登録されると、その内容が記載された登録公報が発行され、実用新案登録出願より後の出願の先行技術文献として機能します。特許出願の審査では、先行技術文献として、特許公報だけでなく実用新案公報もチェックされますから、実用新案公報に記載された考案と同じような発明や、実用新案公報の記載から容易に導き出せそうな発明に関して、他者に特許が付与されてしまうのを防ぐことができます。

 

  特許出願は、権利化されることで強力な財産となり得ますが、出願時の費用に加えて、審査請求手続のための印紙代や拒絶理由を受けたときの応答のための費用など、かなりの費用が必要となります。また、費用をかけたからといって確実に権利を取得できるとは限りません。これに対し、実用新案にかかる費用は出願時の費用と登録料くらいですみます。


  無審査で登録されるものですので、万一、他者との係争が生じた場合の権利行使が難しいというデメリットはありますが、事業を守り、発展させる目的で上手に活用すれば、価値のある財産権になると思います。ただし、このような活用を可能にするには、無審査で登録されるからといって手抜きなどせず、特許出願の場合と同じように、明細書や請求の範囲をしっかり検討して十分な記載をしておくことが必要です。また、明らかな無効理由がある権利を持つ状態になったり、出願後に世に出した商品が他者の権利を侵害するものにならないように、同一の発明・考案が既に出願されたり、権利化されていることがないかを調査しておきましょう。