知的財産または知財 というコトバ・・・
何ともわかりにくく、説明もしにくい概念のコトバではありますが、
それでも、
昨今は耳慣れするコトバとなり、発明(特許)、著作権(著作物)、商標というような
各種知的財産を思い浮かべられる方が多いことと思います。
しかし、事業をされておられる方々に、「御社の知的財産は何ですか・・・?」
と問うてみたならば、
~うちは、受注生産型の企業で、ブランド商品なんてないし・・・
~ものづくり企業じゃないし・・・
~美術や音楽なんて取り扱ってないし・・・
↓
だから、知的財産なとは無関係 ^_^;
と言い切られてしまうシーンも多いように感じます。
しかし、そうと言い切るのは危険です。
技術開発には縁がない事業や独自の商品やサービスを取り扱っていることがない事業でも関わりのある知的財産・・・というものがあります。
それは、会社名や屋号、いわゆる商号という知的財産です。
特に、この商号が通常の機能を超える役割、つまり、会社やお店が取り扱う商品やサービスを表す商標として機能する可能性に、注意をする必要があります。
たとえば、実際に販売される製品には付けていないかもしれませんが、会社名を表すロゴマークを入れたカタログ類やチラシを作成して配布したり、製品を紹介するホームページのヘッダにロゴマークを入れたりすることは、結構あると思われます。美容院、飲食店などのサービス業でも、お店の名前を目立つ書体で記した看板を掲げたり、お店の名前を表すロゴマーク入りのチラシを配布されたりしておられることでしょう。ネットショップのサイトを立ち上げる場合でも、店名(サイト名)を表すロゴマークをつけておられることでしょう。
これらのような商号の使用は、自己の名称を普通に表したものではなく、他の事業者の商品やサービスとは異なるものとして需要者に認識してもらうための標識として使用する行為(商標的使用)となります。
どのような事業でも、「自分」を覚えてもらわないことには成り立ちません。社名や店名を懸命に考え、また選択した名称を人々の目にとまりやすい形のロゴマークにして表すことは、ごく当たり前のことです。しかし、その選択を確定してしまう前に、是非とも注意していただきたいことがあります。
選択しようとしている名称を商標として使用することに問題がないかどうか、つまり、
選択しようとしている名称を実際に使用した場合に他者の商標権を侵害することにならないかどうかを検討する・・という注意です。
そのためには、会社やお店が取り扱う商品やサービスと同種の商品やサービスについて、
選択しようとしている名称と同一または良く似ていて混同が生じそうな商標が登録されたり、登録の申請手続き(商標登録出願)が行われていないかどうかを、調べなければなりません。
この調査を怠った、または不十分な調査しかしていなかったために、他者の商標権を侵害している状態になったとしても、必ずしも商標権者から警告されたり、差し止め訴訟や損害賠償請求を受けるわけではありません。見過ごしまたは見逃されて、安泰な状態を続けることができる場合も多いことでしょう。
しかし、大抵の場合、商標権者の権利行使は、侵害者の事業が順調に進行して商標権者の知るところとなった時点で発生しますので、侵害者は非常に大きなダメージを受ける可能性があります。
たとえば、数年前ですが、小さな洋菓子店が売り出したケーキが大ブレークしたところ、その店舗名と同じ名称に関して登録商標を保有していた洋菓子メーカーから権利行使をされ、裁判での争いになったことがありました。洋菓子店は商標権の侵害に関して争いましたが、敗訴となり、また係争中に店名を変更しました。
洋菓子メーカーが商標登録を受けたのは、洋菓子店の開業よりはるかに前でしたので、洋菓子店が登録商標の存在を考慮して最初から異なる店名を選択していたら、避けることができたトラブルでした。
商品の名称を変更しなければならない場合も痛手を被るでしょうが、会社名や屋号を変更する場合、人々に広く知られる状態になった名称を手放さなければならず、もっと重篤な損失が生じるおそれがあります。また、様々な印刷物を刷り直したり、社名入りの商品を市場から回収したり、場合によっては商標権者への損害賠償も加わって、金銭的にも大きな損失が生じるおそれがあります。
名称を選択する段階で問題となるような商標権がなかった場合でも、その後に出願されて登録された商標によって、同様の問題が発生するおそれがあります。登録商標が出願されるより前にこちらが選択した名称の使用を開始していた場合、その名称が相当に著名になっていれば、名称の使用を継続する権利(先使用権)が認められる可能性がありますが、多くの場合は、そこまでの著名性を獲得できてはおらず、商標権者に対抗するのは困難になります。
これらの問題が生じるのを防ぐためには、以下の2つの対策をとらねばなりません。
1つ目の対策は、
名称を決めてしまう前にしっかり商標調査を行うこと。
そして、この調査により問題となる商標が見つからなかった場合には、
2つ目の対策として、
選択した名称について、できるだけ早く商標登録出願を行うこと。
ロゴなどの使用形態が決まっている場合には、その使用形態を対象の商標として出願を行います。そうしないと、商標登録を受けても、実際に使用している商標が独占権の範囲に含まれなくなってしまいます。実際に使用するのとは異なる形態(たとえば、特許庁が指定する標準文字)により権利を取得した場合には、その登録商標により、他人が同一または類似の商標を使用することを禁じることはできますが、実際に使用する形態の商標を独占的に使用する権利を得ることはできません。また、登録された商標が使用されていないとしてその登録の取り消しを求める申し立て(不使用取消し審判)が提起された場合に対抗できず、商標登録が取り消されるおそれがあります。
商標を登録するには、政令で定められた区分に基づいて商標を使用する商品やサービス(役務)を指定する必要があり、審査においては、指定した商品やサービスのほか、それらに類似する関係にある商品やサービスをしている先登録商標・先願商標との関係もチェックされます。したがって、実施する事業や今後実施する予定の事業をふまえて、調査の対象範囲や出願で指定する商品・サービスを、よく検討する必要があります
技術開発には縁がない事業や独自の商品やサービスを取り扱っているわけではない事業でも関わりを持つ可能性がきわめて高い知的財産・・・それが商標です。特に、会社名や屋号は、簡単に変更することができない財産であるため、必ずといって良いほど使用の是非や商標登録を検討せねばならないのですが、その意識が浸透しているとはまだまだ言えないなぁ、と感じるケースをしばしば目にします。
また、特許出願に比べ、なるべく費用をかけたくないと、費用の面のみで代理人を選択したり、自力で手続きをするケースも結構あるようですが、その結果、十分な保護ができていない状態になった、という結果にならないかが心配です。
たとえ様々な想いをこめた名前であっても、他人の商標権を侵害するおそれがあるものを選択することは避けねばなりません。万一トラブルが生じた場合には、調査や出願に要する費用程度ではすまない損失が生じるおそれもあることを頭において、安全性の高い名前を選択し、その名前を保護することを、是非ともご検討下さい。