特許権の権利期間は、出願日から20年間となっていますが、権利が発生するのは、審査で許可されて、特許権の設定登録がされたときからです。したがって、この登録を早くすることができれば、その分、権利期間を長くすることができます。
特許出願の審査は、通常は、審査請求手続の順に行われるのですが、一定の条件を満たす出願に関しては、その条件に該当する出願であることを説明する書面(早期審査に関する事情説明書)を特許庁に提出することにより、この通常の順番を飛び越えて、早期に審査をしてもらうことができます。
早期審査の申請は、以前は、特許出願に係る発明を実施しているか、同じ発明を外国にも出願していることなど、条件が限られていましたが、しだいに適用範囲が拡大されました。現在は、中小企業や個人等(大学や公的研究機関も含む。)による出願、震災復興支援の関連出願、省エネ、CO2の削減を目的とする発明(グリーン発明)の出願も早期審査の対象となっています。
また、早期審査を申請するには、先行技術を調査して、その調査で見つけた先行技術を出願人の発明との対比説明とともに早期審査の事情説明書記載する必要があるのですが、中小企業等の出願の場合には、調査をしなくとも、自身が知っている文献を記載すれば良いとされています。また、出願時の明細書に先行技術文献が記載されて、十分な対比説明がされている場合には、それを説明することによって、先行技術文献に関する記載を簡略化することも可能になりましたので、中小企業や個人の方の出願であれば、簡単な手続によって早期審査を受けることができます。
早期審査の対象であると認められると、一般に2~3ヶ月で審査に着手されますので、出願後すぐに早期審査の申請手続きをすれば、1年を経過しないうちに特許される場合もあります。
それならば、この制度を利用しないと損だ! と思われるかもしれませんが、この制度には落とし穴もあり、注意が必要です。
早期に審査されると、もちろん早期に特許される可能性が生じますが、同時に、早期に拒絶される可能性も発生します。出願された発明に近い先行技術があるのに早期審査を申請すると、その先行技術が引用されて拒絶理由が通知されてしまいます。この拒絶理由を解消することができなければ、拒絶は確定してしまいます。
通常ならば、仮に最終的に拒絶されたとしても、出願から拒絶が確定するまでの数年間、「特許出願中」という表示をすることができます。しかし、早期審査により拒絶が早期に確定すると、「特許出願中」という表示をできるのは1年足らずになるかもしれません。
先行技術調査をせずに早期審査の制度を利用できるのは、確かにメリットであるように見えますが、少なくとも、出願した発明に近い先行技術がないかどうかをチェックしてから申請しないと、かえって損をすることになります。
めでたく早期に特許された場合にも、問題が発生する場合があります。通常は、出願してから改良発明をした場合、1年以内であれば、国内優先権という制度を利用して、前の出願を基礎にして改良発明を加えた内容の出願をすることができます。また、出願から1年を超えてしまった場合であっても、前の出願が公開されないうちに改良発明を出願すれば、両方の出願を特許に導くことができる可能性があります。
ところが、早期審査により1年以内に特許されてしまうと、もはや出願の状態にないので、国内優先権の制度を利用することはできなくなります。また、国内優先権を利用せずに改良発明の出願をするとしても、早期審査により特許された案件の特許公報が改良発明の出願より前に発行され、これが改良発明の先行技術文献となってしまう可能性があります。
早期に特許されて、出願公開の時期より早く特許公報が発行されてしまうと、基礎発明は公に知られたものとなり、たとえ最初の出願と改良発明の出願の出願人や発明者が同一であっても、改良発明は、公開された基礎発明に基づいて容易に導き出されたものと判断される可能性が生じるのです。
したがって発明が改良されるような可能性がある場合には、あせって早期審査の申請をせずに、どのタイミングで審査をしてもらうのがよいかを、よく検討することが必要です。