特許出願は、審査請求という手続がされることによって、審査の順番待ちの列に加えられ、順番がくると、特許庁の専門職員(審査官)による審査を受けます。
審査官は、出願の内容に何も問題がないと判断した場合は、特許査定を行います。この査定は特許査定の謄本という文書により出願人(代理人)に送達され、その送達の日から30日以内に3年分の特許料を納付することにより、特許権の設定登録が行われます。
しかし、上記のように審査で一発合格する割合は少なく、たいていの出願には、何らかの拒絶理由が通知されます。
通知される拒絶理由のうち最も多いのは、出願された発明には過去の技術から容易に考えついたものである(進歩性がない)というものです。このほか、出願された発明はその出願より前に知られた発明である(新規性がない)という拒絶理由、発明に関する記載が不明確であるという拒絶理由(記載不備)、1つの出願として手続きをすることは認められない(単一性違反)という拒絶理由が通知されることもあります。
ただし、これらの拒絶理由は、あくまでも現在の特許請求の範囲に記載されている発明に対して通知されたものであり、出願の内容が完全に否定されたわけではありません。
一般に、出願時の特許請求の範囲には、発明者が実際に発案した内容よりも上位の概念を想定して記載します。権利の範囲をできるだけ広くするためなのですが、そのようにして拡大された概念の中に、既に公知となっている技術やその公知技術から容易に導き出せそうなアイデアが含まれたり、特許請求の範囲の記載が曖昧になって、そのために拒絶理由が生じることがあります。
しかし、出願の書類全体に、発明の新規性や進歩性を裏付ける記載があれば、その記載に基づいて特許請求の範囲を限定する補正を行うことによって、通知された拒絶理由を解消して、特許査定を受けることができます。
何も概念を広げなくとも、初めから記載を適度に限定して一発で通したらいいのに・・・と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一発合格が一番良いとは限らないのです。特許請求の範囲をがちがちに狭くすれば、拒絶理由を受けずに特許査定をもらえるかもしらませんが、そのような狭い権利範囲では、いくらでも抜け道(権利に抵触しないように回避する方法)が見つけられて、たやすく物真似をされてしまう危険があります。そうなると、特許権の財産的価値はきわめて低くなります。
このようなことにならないように、出願をする際には、発明になくてはならないものや、他の手段に置き換えることができるものが何かを検討し、その検討結果に基づいて、特許請求の範囲を少し広めに設定しておく必要があるのです。また拒絶理由が通知された場合にも、その拒絶理由の内容を良く検討して、必要以上の限定を加えることがないように注意することが必要です。
もちろん、とんでもなく広い概念を設定するのは、逆効果になります。ほどほどに欲張る、ことが大事です。
拒絶理由が通知されることなく特許査定の謄本が送達されることは、確かに喜ばしいことですが、喜んでばかりではなく、果たして許可された特許請求の範囲の広さが十分であったかどうかを、今一度、検討してみることも必要です。特許査定の謄本が送達されてから30日以内に分割出願をすることも可能ですので、この制度を活用することも検討してみて下さい。
取得した権利の範囲が広くとも、狭くとも、国に納める特許料の額は変わりません。ですから、できるだけ価値の高い権利を取得しなければ、もったいないです。出願を検討する場合には、いろいろな方向から発明を観察してみましょう。